プロダクト・バイ・プロセス・クレーム(PBPクレーム)の解釈について、2012年に、知財高裁の大合議は、これを真正PBP(物の特定を直接的にその構造又は特性によることが出願時において不可能又は困難であるとの事情が存在するため,製造方法によりこれを行っているとき)と不真正PBP(そのような事情が存在するとはいえないとき)とに区別し、不真正PBPの場合の技術的範囲は、クレームに記載された製造方法によって製造された物に限定されると判示していました。

2015年6月、最高裁がこの知財高裁判決を覆しました。
その判決要旨は以下の通りです。
1 物の発明についての特許に係る特許請求の範囲にその物の製造方法が記載されているいわゆるプロダクト・バイ・プロセス・クレームの場合であっても,その特許発明の技術的範囲は,当該製造方法により製造された物と構造,特性等が同一である物として確定される。
2 物の発明についての特許に係る特許請求の範囲にその物の製造方法が記載されているいわゆるプロダクト・バイ・プロセス・クレームの場合において,当該特許請求の範囲の記載が特許法36条6項2号にいう「発明が明確であること」という要件に適合するといえるのは,出願時において当該物をその構造又は特性により直接特定することが不可能であるか,又はおよそ実際的でないという事情が存在するときに限られる。

この最高裁判決を受けて、従来の特許審査を大転換することとなり、特許庁は、当面の審査・審判の取り扱いの公表やら、「不可能・非実際的事情」の主張・立証の参考例の立案やら、対応に追われており、我々代理人もPBPを理由とする多くの拒絶理由を受けています。

以下、特許・実用新案審査ハンドブックより抜粋

○「その物の製造方法が記載されている場合」に該当する類型、具体例。」

類型(1-1):製造に関して、経時的な要素の記載がある場合
具体例:
「支持体に塗布し、液晶相に配向する温度で光照射してなる偏光子」
「凹部を備えた孔に凸部を備えたボルトを前記凹部と前記凸部とが係合するように挿入し、前記ボルトの端部にナットを螺合してなる固定部を有する機器補正例:
「支持体に塗布し、液晶相に配向する温度で光照射してなる偏光子の製造方法
「凹部を備えた孔に凸部を備えたボルトが前記凹部と前記凸部とが係合した状態で挿通されており、前記ボルトの端部にナットを螺合してなる固定部を有する機器。」(経時的な要素の記載がなくなり、「類型 (2):単に状態を示すことにより構造又は特性を特定しているにすぎない場合」に該当。)

類型(1-2):製造に関して、技術的な特徴や条件が付された記載がある場合
具体例:
「モノマーA とモノマーB を50℃で反応させて得られるポリマーC」
1~1.5 気圧下で焼成してなる蛍光体」
「外面に粒子状の物質を衝突させた粗化処理が施されたゴム製品」
補正例:
「モノマーA とモノマーB を50℃で反応させるポリマーC の製造方法
1~1.5 気圧下での焼成工程を経て製造する蛍光体の製造方法
「外面に粒子状の物質を衝突させる粗化処理を施すゴム製品の製造方法」 

類型(1-3):製造方法の発明を引用する場合
具体例:
請求項1~8 いずれかの製造方法で製造されたゴム組成物」
請求項1~4 いずれかの製造方法で製造されたポリマー」
補正例: (通常、製造方法の発明を引用したままでは、補正によって「物の製造方法が記載されている場合」に該当しないようにすることはできない。)

○ 「その物の製造方法が記載されている場合」に該当しない類型・具体例

類型(2):単に状態を示すことにより構造又は特性を特定しているにすぎない場合
具体例:
「樹脂組成物を硬化した物」
「貼付チップがセンサチップに接合されている物品」
「A がB と異なる厚さに形成された物」
「A とB を配合してなる組成物」
「ゴム組成物を用いて作成されたタイヤ」
「A 層とB 層の間にC 層を配置してなる積層フィルム」
単離細胞」「抽出物」「脱穀米」「蒸留酒」「メッキ層」「着脱自在に構成

この例示だけでは、正直、よくわかりません。今まで受けた拒絶理由から推察すると、上の例で許される記載であっても、単に状態を示していると認定される場合もあれば、PBPクレームとして拒絶され、他の表現への補正を要求される場合もあると感じています。その都度、審査官とコンタクトとりながら具体的な補正内容を決めていますが、PBPクレームとされるか、単に状態を示しているかは、クレームの他の部分も含めた全体の文脈の中で判断する必要がありそうです。また、単に言い回しを変えるだけの補正や、製法の限定を外したために一見広くなったような補正も認められています。当面の間は、このような拒絶理由や補正が続くものと思われます。

なお、本件訴訟は、本件発明が「発明が明確であること」という要件に適合するか再度判断するために、知財高裁に差し戻されましたが、2015年12月、知財高裁において、特許権者による請求放棄によって訴訟は終了しました。